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東京地方裁判所 昭和36年(ヨ)2116号 決定 1961年3月28日

決定

東京都品川区大崎本町三丁目五七五番地

申請人

株式会社目黒製作所

右代表者代表取締役

村 田 延 治

右訴訟代理人弁護士

和 田 良 一

竹 内 桃太郎

渡 辺   修

東京都品川区大崎本町三丁目五七五番地

被申請人

総評全国金属労働組合東京地方本部目黒製作所本社支部

右代表者執行委員長

池 亀 庄次郎

右訴訟代理人弁護士

東 城 守 一

栂 野 泰 二

久保田 昭 夫

山 本   博

舎 川 昭 三

小谷野 三 郎

陶 山 圭之助

右当事者間の昭和三六年(ヨ)第二一一六号立入禁止仮処分申請事件について、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

一  別紙目録(二)の7、8、11、15及び16、記載の建物(別紙図面(一)において朱斜線を施した部分に相当する建物、但し同図面中11、及び15、と表示した建物については、別紙図面(二)及び(三)において青斜線を施した部分を除き、16、と表示した建物については別紙図面(一)において朱斜線を施した部分に限る。)に対する被申請人の占有を解き、申請人の委任する東京地方裁判所執行吏の保管に付する。

二  執行吏は前項の建物を申請人に使用させなければならない。

三  被申請人は申請人の従業員が別紙目録(一)及び(二)記載の土地及び建物(但し別紙図面(二)及び(三)において青斜線を施した部分を除く。)に立ち入つて就業すること並びに製品、材料を搬出入することを、口頭でその中止を説得する以外の方法で、妨害してはならない。

四  執行吏は第一項の趣旨を公示するため適当な措置をとることができる。

五  申請費用は被申請人の負担とする。

理由

第一  申請の趣旨

申請人は、

「別紙目録(一)及び(二)記載の土地及び建物に対する被申請人の占有を解き、申請人の委任する東京地方裁判所執行吏の保管に付する。

執行吏は前項の物件を申請人に使用させなければならない。

被申請人は申請人の役員、従業員の業務を妨げ、又は第一項の土地及び建物への出入を妨害してはならない。

執行吏は前各項の趣旨を明らかにするため公示その他適当な方法を構じなければならない。

申請費用は被申請人の負担とする。」との裁判を求めた。

第二  当裁判所の判断

一  紛争の経過

申請人が東京都品川区大崎本町三丁目五七五番地に本社事務所及び工場を、栃木県那須郡鳥山町に工場を設け、本社事務所及び工場に三三三名、鳥山工場に二一八名の従業員を携して、自動二輪車、軽二輪自動車、原動機付自転車などの製造販売を業とする資本金三億円の株式会社であること、被申請人が申請人の本社事務所及び工場の従業員のうち約一四〇名で組織する労働組合であつて、申請人の鳥山工場の従業員のうち約一一〇名で組織する総評全国金属労働組合栃木地方本部目黒製作所鳥山工場支部(以下「鳥山工場支部組合」という。」と共に、目黒製作所労働組合連合会(以下「連合会」という。」を構成していること、なお申請人の従業員中被申請人及び鳥山工場支部組合に所属しない者の間には本社事務所及び工場関係の約一七〇名が組織する株式会社目黒製作所新労働組合及び鳥山工場関係の約九〇名が組織する同鳥山工場新労働組合(以下、両者を一括して「新組合」という。」があることは当事者間に争いがないところ、疎明及び当事者間に争いがないところによれば、次の事実が一応認められる。

(1)  連合会は昭和三六年二月二日申請人に対し一律月額金四、〇〇〇円の賃上げを要求した。

(2)  これに対し申請人は同月一一日当時立案中の会社再建方策の成案を得るまで回答を留保する旨を通告したが、一応同月一六日及び二〇日の二回にわたり連合会と団体交渉をなしたうえ、同年三月六日に至り従業員七六名の整理解雇を骨子とする経営合理化による再建要綱を発表すると共に、賃上げの要求には応じられない旨を明らかにした。

(3)  ところが連合会は申請人の態度を不満とし、同年二月一六日闘争宣言を発し、同月二二日及び二三日の両日本社工場ホイール組立職場及び鳥山工場歯切職場において反覆して二四時間部分ストライキを、同月二四日から無期限に本社工場製造部工作課において出張拒否の争議行為を、同月二四日から二七日まで鳥山工場において毎日各一時間の全面時限ストライキを、同月二七日から同年三月八日まで本社工場二五〇CC、S7型車輛組立職場において反覆して第一ないし第三波の七二時間ストライキを、同年二月二八日から同年三月六日まで本社工場において組合員三名による、いわゆる指名ストライキを、同年三月一日から三日まで本社工場において組合員二名による指名ストライキを、同月八日から一一日まで及び同月一三日から一六日まで本社工場及び鳥山工場において反覆して二四時間全面ストライキを決行した。

(4)  そこで申請人は前記部分ストライキには、これが行われた職場及び作業上これに関連のある職場につき被申請人及び鳥山工場支部組合の組合員に対する部分ロックアウトをもつて対抗したが、ストライキが前記の様相を呈するに至つたため、これに対抗し同年三月七日連合会に対し全事業場における同月八日から無期限のロックアウトを通告した。

(5)  この間に後記二の(1)及び(2)に認定したような争議状況が現出したのであるが、同年三月二〇日労使間において冷却期間設定のため別紙協定書記載のような暫定協定が締結され、同月二二日及び二三日の両日にわたり争議解決の手段について団体交渉が行われたけれども、全従業員の就労によつて操業しながら団体交渉を重ねて紛争を解決すべく主張する申請人と、申請人と被申請人らとの間に締結された後記ユニオンショップ協定により新組合員の解雇もしくは不就労を前提としない限り申請人の生産再開に応じられない旨を主張する被申請人との間に妥結点が見出されないまま前記暫定協定による冷却期間が経過したところ、被申請人は連合会の指令に基き同月二五日及び二六日の両日本社工場及び鳥山工場において反覆して二四時間全面ストライキを決行した。

二、争議の状況

別紙目録(一)記載の土地及びその上に存する同目録(二)記載の建物(以下右土地及び建物を総称して「本社工場」という。)がいずれも申請人の所有に属し、申請人において本社事所及で工場として使用しているものであること、右建物のうち別紙図面(二)及び(三)において青斜線を施した部分が申請人からかねて被申請人に組合事務所又は集会場としてその使用を許していたものであることは当事者間に争いがないところ、疎明及び当事者間に争いがないところによれば、次の事実が一応認められる。

(1)  被申請人は連合会の指令に基きストライキの実効を挙げるため同年二月二七日午後からストライキ中の組合員をもつて本社工場の建物のうち、別紙図面(一)中7と表示した建物に相当する二五〇C・CS7型車輛組工場及び倉庫を占拠し、同年三月八日早朝に至るや本社工場の出入口をなす同図面表示の正門、通用門及び出荷門の門扉を閉鎖すると共に、その内外に数十名のピケ隊を配して人垣をつくり、これによつて申請人の役員を除く非組合員並に本社事務所及び工場関係の新組合の組合員の構内立入を阻止し、同日午後には閉鎖中の右門扉に両側から鉄棒、鋼材等をあてがつて針金でしばりつけ、その開閉を著しく困難にして、右出入口における通行の障害を強化し、更にストライキ中の組合員をもつて別紙図面(一)中1と表示したものに相当する部品課事務所及び倉庫、8と表示したものに相当する仕上イクール工場(一階)及びリムタイヤ工場(二階)、11と表示したものに相当する共通部品倉庫(但し一階のみ)、14と表示したものに相当する半製品倉庫、15と表示したものに相当する検査課事務所、検査場(一階)、電話交換室、宿直室等(二階)及び17と表示したものに相当する車輛置場を占拠し又本社工場構内の別紙図面(一)中青二重線を施した部分に相当する通路に納品箱などを積み重ねて通行上の障害物を設置し、その後申請人からたびたび口頭又は文書をもつて通行障害物の撤去、出入阻止の中止及び本社工場(但し別紙図面(二)及び(三)において青斜線を施した部分を除く。)からの退去の要求があつたにかかわらず、外部団体の支援を受けて同月二〇日まで前記のような態容で本社工場の占拠及び非組合員らの出入阻止を継続していた。なおその間において被申請人の組合員は同月八日及び九日には、就労のため本社工場に立入ろうとする新組合員に対し、外塀上から竹竿をふりまわしたり、構内からバケツや消防用ホースで水を浴びせたり、木片、鉄片などを投げつけたりして、その立入を阻止し、又同月八日には正門をのり越えて本社工場内に立入つた非組合員の青柳工作課長を数十名で引きずり出したことがあつた。

(2)  このような事態のため本社工場にあつては同月八日の早朝以前に入門して居残つていた非組合員若干名及び被申請人の阻止を受けずに出入することができる申請人の役員若千名が、わずかに別紙図面(一)中13と表示した建物に相当する部品倉庫及び検査室並に20と表示した建物に相当する製造部事務室を使用しているだけであつて、その余の施設に対する管理支配は申請人の手でこれをなすことが殆ど不能に帰し、むしろ被申請人によつて左右されるところとなり、ことに被申請人が占拠した前記建物については申請人の支配が完全に排除されていて、申請人としては非組合員及び新組合員の就労を得て操業を継続し製品を生産することを望み得ず、本社工場内にある製品を搬出することも全く自由にならない状況にあつた。

(3)  ところが同月二〇日労使間に冷却期間を設定する趣旨の前記暫定協定が成立し、これが履行のため被申請人が前記の通行障害物を撤去すると共に占拠中の建物を明渡したので、申請人はこれらの建物に施錠の上前述のとおり被請人と団体交渉を続けたが難航のうちに右冷却期間が経過した。すると、被申請人は同月二三日午後四時四〇分以降再びその組合員をもつて前記二五〇CC・S7型車輛組立工場及び倉庫、仕上ホイール工場、リムタイヤ工場、共通部品倉庫検査課事務所、検査場、電話交換室、宿直室等、及び別紙図面(一)中16と表示した建物のうち朱斜線を施した部分に相当する鍍金試験室にその施錠を破つて慢入しこれを占拠した上、同月二四日早朝から正門、通用門及び出荷門を閉鎖し、通用門に針金を縛りつけ、出荷門の内側に厚板数枚を横に押しあててその開閉を困難にしただけでなく、正門及び通用門の内側に数十名のピケ隊による四、五列の人垣をつくつて本社事務所及び工場関係の新組合の組合員の構内立入を阻止し、申請人の退去要求及び出入阻止の中止要求を無視して現在に至るまで右建物の占拠及び新組合の組合員の出入阻止継続している。

これがため申請人の右建物に対する支配が完全に排除されているのみならず、本社工場のその余の部分に対する管理支配も亦不能に近いこと及び製品の生産及び搬出が不能であることは、同月二〇日以前と同一の状況にある。

三  本案請求権の存在

(1)  さきに認定したところによれば申請人の本社工場を構成する本件土地、建物は申請人の所有であつて、その円満な状態が被申請人の前記方法、態容による妨害をうけているのであるから、申請人はその妨害を受忍すべき特段の事由ががない限り、所有権に基き右妨害の排除を求めることができ、又将来も妨害の虞がある限りその予防を求めることもできるものといわなければならない。

(2) ところで被申請人が連合会の指令に基きストライキを決行中職場占拠したものであること、のみならず申請人がストライキの前記様相に応じて連合会に昭和三六三月八日から無期限のロックアウトを通告したことは、さきに認定したとおりであるから、現段階においては仮に被申請人がたまたまストライキ中にないとしても申請人が被請人の組合員による職場占拠を受忍すべき義務はないものといつて妨げない。けだし、労働者は本来自己の所有しない生産手段を支配する法律上の権限を有するものでないところ、ストライキを行い、又はロックアウトをうけて、その労働力が使用者の支配から離脱した場合においては、生産手段を日常のように事実上支配することも使用者によつて容認さるべき理由さえ失われるからである。

被申請人は本件ロックアウトの通告には事実上の閉出行為が伴わないから法律上のロックアウトとしていまだ成立していない旨を主張するが、ロックアウトは使用者が労働者との経済斗争において賃金の支払義務を免れ、これによつて労働者に圧迫を加えるとともに自らの操業停止による負担を軽減することを目的として労働者の労務提供の受領を拒否することを本質とする争議行為であつて、その手段としては必ずしも労働者を作業場から閉出す行為を必要とするものではなく作業場閉鎖つまり労働者に対する作業供給の停止の通告で足りるものと解するから右主張は採用しない。なお、被申請人は本件ロックアウトは申請人の新組合の組合員らの就労によつて操業を継続することを目的として行われたものであるから、本来自ら操業を停止することを前提として許されるロックアウトの本質と矛盾するものであつて違法である旨を主張するが、ロックアウトが労働者の労務提供の受領を拒絶することを本質とする結果その限度で使用者の操業停止が生じることは当然にしても、これは使用者が労務提供の受領を拒絶する相手方たる労働者との間における相対的現象にすぎないのであつて、他に労務の提供をなす労働者がある場合使用者がその就労によつて操業を継続することと必ずしも矛盾するものではなく、もとよりロックアウト中における使用者の操業の自由を否定する論拠となるものでもないから、右主張も採用に値しない。しかして又被申請人は本件ロックアウトは申請人が新組合の組合員の就労を認めて操業を継続することにより専ら被申請人の組合員に心理的動揺を与え組合の切崩をなさんとする企図に出た不当労働行為であつて違法である旨を主張するけれども、さきに認定したような被申請人の行つたストライキの様相からすれば、使用者たる申請人がその対抗策として無期限本件ロックアウトをなしたことには合理的な理由があるものと認められると共に、後に判示するように申請人に操業を継続する切実な要求が存した以上、仮にロックアウトの結果被申請人の組合員に心理的動揺を与え組合の団結に影響が生じることがあり又申請人が新組合の組合員の就労を期待することが可能となつたとしても、他に特段の事情がない限り右ロックアウトの決定的原因が組合切崩の意図にあたものとは直ちに推認し得べくもないから、被申請人の右主張が失当たることは明らかである。

次に被申請人は争議中においては労働力が使用者の指揮命令から離脱し労働組合の支配下に移ることにより使用者は労働力を生産手段に結合させる権利を失う以上、使用者の生産手段に対する所有権は操業権又は企業権のような動的作用を停止し、操業を目的としてその妨害の排除まで求める権能を有するものではない旨を主張するが、たとえ労働者が争議中であつても使用者が生産手段に結合し得ない労働力は争議行為によつて完全な労務の提供を拒否しているものに限られるのであつて、特段の事情がない限り使用者が他の労働力を生産手段に結合して操業を行う自由まで奪われるものではなく、もとより使用者の生産手段に対する所有権がその権能の一部を停止さるべきいわれはないから、被申請人の右主張は排斥を免れない。

更に又被申請人は本件職場占拠はスキャップから自己の職場を防衛するためになされたものであるから当然適法である旨を主張するが、右職場占拠は仮にその目的が右主張のとおりであつたとしても労働組合にスキャップ防衛の手段として許される争議行為の正当性の限界を逸脱するものというべきであつて、右主張が失当たることは明らかである。

(3)  しかして被申請人が主として本件工場の出入口附近で申請人の従業員の立入を実力で阻止し又阻止する態勢にあることはさきに認定のとおりであるから、その結果として申請人は本社工場を生産手段として使用することの不能を強いられ、その所有権の円満な状態が妨害されているものと認むべきであるが、申請人に操業の自由が否定されない以上、右妨害を受忍すべき義務はないという外はない。

被申請人は申請人との間にユニオン・ショップ協定が存する以上、本件争議の発生後たる昭和三六年二月二六日以降被申請人を脱退して新組合に走つた者は本来申請人から解雇さるべきものであるから、申請人のため就労を許さるべきものではなく、仮にいまだ労働契約上の権利を失わないとしても被申請人が争議を行つている間においては債権法又は労働保護法によつて保障される賃金請求権を確保することによつて満足すべきであるのに、その限度を超えあえて就労せんとするが如きは被申請人の団結権、争議権を侵害するものであつて同じ労働者として背信的行為であるというべく、又申請人がその就労を許すことは労働協約違反たるを免れず従つて被申請人がこれを阻止するために行うビケッチングはある程度強力となつても、直ちに違法とするに足りず、まして申請人が本社工場の出入口の門扉を閉鎖しその開閉を困難とする障礎を設けたのは新組合の組合員によつて行われようとしている強行就労のため無用の混乱が生じその間に不祥事が起きることを防止するためであるからには、申請人が生産手段に対する所有権を楯にその排除を求め得べき筋合ではない旨を主張する。しかして疎明及び当事者間に争いがないところによれば、申請人と連合会、被申請人及び鳥山工場支部組合との間に締結された労働協約第三条には、その各号に定めた者(課長以上の職制、臨時雇傭の者等)を除く申請人の従業員はすべて被申請人又は鳥山工場支部組合の組合員でなければならず、申請人は右各組合の脱退者又は被除名者を解雇しなければならない旨の、いわゆるユニオン・ショップに関する条項があり、又同第三六条第一項には、申請人は被申請人らの行う争議行為に対し、同第三条に定めた非組合員ならびに当事者間で協定した争議不参加者以外の者を使用して不当な争議妨害行為を行わない旨の、いわゆるスキャップ禁止に関する条項があること、新組合は本件争議発生後たる昭和三六年二月二七日頃被申請人及び鳥山工場支部組合の方針を不満として、これを脱退した者が組織したものであることが一応認められ、右事実によると、申請人が新組合の組合員を就労させることは一見右協約第三条及び第三条第一項の規定に違反するもののようであるが、さきに認定したところから明らかなように当時約三一〇名であつた被申請人の組合員のうち約一七〇名、約二〇〇名であつた鳥山工場支部組合の組合員のうち約九〇名がそれぞれ脱退して同組合を組織するに至つたのであつて、このように労働組合の内部に分裂を生じ多数の組合員が集団的に脱退して新組合を結成した場合においては労働組合の団結の強制を図ることを主眼とするユニオン・ショップ協定はこれをそのまま適用すべき統一的基盤を失つたものというべきであるから、これによつて団結の強制を新組合の組合員に及ぼすべきいわれはなく、むしろこれが強制は新組合の団結権を侵害するものというべく、従つて又争議時において代理労働者の就労を禁止し労働組合の争議の実効を期しひいては団結の強化を図ることを主たる目的とするスキャップ禁止協定も右と同様の意味において新組合の組合員を専用の対象とすべきではないのである。してみると被申請人の右主張はこれと相容れない見解に立脚するか又は独自の見解を展開するかに帰着するから採用の限りではない。

なお被申請人は新組合の養成は申請人がその経営政策上の基本的態度に基き労働組合の御用組合化又は弱体化を企画し被申請人及び鳥山工場支部組合の切崩工作を行う為の不当労働行為を行つた結果である旨を主張するが、右主張事実を肯認するに足る硫明はない。

(4)  果してそうだとすれば、申請人は本社工場の所有権に基ずき、被申請人に対し現存する明記妨害の排除を求める本案請求権を有するものであり、又さきに認定のようなその妨害の態容からすれば将来も同様の妨害が生じる虞があることは推認するに難くないから、更にその予防を求める本案請求権を有するものであるということを妨げない。

四  仮処分の必要性

疎明及び当事者間に争いがないところによれば、次の事実が一応認められる。

(1)  申請人は昭和三三年一〇月頃から業績低下を来し始めたため取引先から仮受金前受金の趣旨で約束手形の交付を受け、これによつて金繰をしていたが、昭和三六年二月末日現在その総額が約金一二、一〇〇余万円に達した。ところが本件争議のため先に受注しながら製品を生産できず(なお同年三月二四日現在の注文車輌の残高が合計七二〇輌に上つている。)、いたずらにその納期の迫るのを待つている状態であり、しかも納期を徒過した場合違約金の支払を求められるおそれがあるものもある。従つてたとえ可能な限りでも生産を継続しない限り、それだけ倒産を早めることにもなりかねない実情にある。

(2)  しかして被申請人が現在占拠中の前記建物は申請人の生産施設としては欠くべからざるものであるところ(とくに二五〇CC・S7型車輌は申請人の製品の主軸をなすものである。)、これが使用不能のため申請人は操業停止を用いられているのである。

(3)  又新組合の組合員で本社事務所及び工場関係の一七〇名のうち約一三〇名は事務系統の仕事に従事しているものであるが、その大部分は技術系統の職場に経験を有するので、これを本来技術系統の職場にある約四〇名に加えて就労させて操業すれば、相当程度の生産も可能であるところ、その就労が阻止されているため、申請人は仮に前記生産施設の使用が可能となつても操業停止を免れないのである(申請人が臨時雇の労働者を就労させることは被申請人との間に存するスキャップ禁止協定に違反するものと解すべきであるが、新組合の組合員を就労させることは、さきに判示したとおり右協定に違反するものではない。)。

(4)  更に又申請人は本社工場内に現在検査済の完成車輛一九六輛、未検査の完成車輛五五輛、合計二五一輛を在庫させているが、本社工場外の営業倉庫に在庫させていた車輛(昭和三六年三月八日現在二二二輛)も現在までに殆ど底をついているところ、自動二輪車などの販売の好時期を迎えたため各地の販売代理の出荷要請に応えて本社工場内の右在庫製品を早急に出荷し、営業上の危機を脱する一助とする必要があるが、その出荷が阻害されているのである。

(5)  なお申請人は本社工場の完全な管理支配を不能とされているため構内の施設、機械、資材につき点、整備をすることも意に委せない状態である。

叙上の事実によれば、それだけで十分に申請人の本案請求権保全のため現に存在する妨害を排除し又将来発生の疑のある妨害を予防するに適宜な措置を講ずべき仮処分の必要があるものといわなければならない。

五  結論

果してそうだとすれば本件仮処分申請は被保全権利及び保全の必要性の存在につき疏明を得たものというべきであるから、申請人に金二〇万円の保証を立てさせた上右権利保全に必要な範囲内において主文第一ないし第四項の仮処分命令を発することとし、申請費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり決定する。

昭和三六年三月二八日

東京地方裁判所民事第一九部

裁判長裁判官 吉 田  豊

裁判官 駒田 駿太郎

裁判官 北 川 弘 治

目録、図面、協定書(省略)

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